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『週刊読書人』読書アンケート(2012年12月15日)
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『週刊読書人』(12月15日号)への回答です。
①『カオス・シチリア物語―ピランデッロ短編集』白崎容子・尾河直哉訳(白水社)
『月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短編集』関口英子訳(光文社古典新訳文庫)
タヴィアーニ兄弟の『カオス・シチリア物語』は私の偏愛する映画のひとつなのだが、
そのシナリオの基になった短篇を収めた作品集が今年刊行されたことは、嬉しい驚きだ
った。続けてこの作家の多彩な作品世界を伝える短編集も刊行され、小説的愉楽が増し
た。まずは、前者の「登場との対話」と後者の「登場人物の悲劇」の併読をおすすめし
たい。
②『ブルーノ・シュルツ―目から手へ』加藤有子著(水声社)
ほぼ十年の創作期間で若くしてナチスに射殺されたブルーノ・シュルツは、ときどき
無性に読み返したくなる作家の一人だ(工藤幸雄訳の全集が新潮社から刊行されている)。
本書はシュルツの全体像を提示した初のモノグラフィー。作品の発展的流れに、画家シ
ュルツの仕事を視野に入れた丁寧な考究をはじめ、この作家の新たな魅力を随所に伝え
るまことに貴重な一書だ。
③『近代日本の翻訳文化と日本語―翻訳王・森田思軒の功績』
齊藤美野著(ミネルヴァ書房)
明治期の翻訳者・森田思軒の訳業と翻訳観に焦点をあてることで、近代日本語の成立
と翻訳史にユニークな考察を進めた刺激的な研究書。翻訳において常に問題になる、起
点テクスト志向と目標テクスト志向の位置づけにしても、たとえば思軒の「周密体」を
めぐって多角的に検討され、文学翻訳論のひとつの事例研究としてだけでも一読に値す
る。