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『図書新聞』読書アンケート(2012年下半期)
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『図書新聞』下半期(2012年12月22日号)への回答です。
①『脱ニッポン記――反照する精神のトポス』上・下巻、米田綱路・著(凱風社)
書物を携え、かつ書物に促されて人に会い、現場をたずね歩く著者の言う〈書評的思
考〉からこれまで多くの考えるヒントを得てきたが、ここに豊かな成果が加わった。北
海道空知の旧産炭地にはじまり、沖縄をへて核関連施設の立ち並ぶ本州最北端の地に立
つまで、列島の各地にひそむ歴史的記憶と命の在処を問う「今」を穿つ書だ。その冷静
な思索の営みに、ときとして孤影を曳く気配があって、ふと耳を澄ますような気分にも
なった。
②『空と風と星と詩――尹東柱詩集』金時鐘・編訳(岩波文庫)
第二次大戦の末期、留学先の日本で治安維持法より検挙され、二十七歳で非業の死を
とげた詩人の遺作のなかから、金時鐘が文庫のために新たに訳出した詩集。清冽きわま
りない詩情とともに生の衝迫力ともいうべき詩境が感知できる。伊吹郷の優れた日本語
訳(影書房刊)も私は愛着があり、この文庫版の登場で併読の楽しみが加わった。
③『ジェイムズ・ジョイス全評論』吉川信・訳(筑摩書房)
二十世紀を代表する作家ジョイスの小説的偉業に関しては贅言を要しないであろう。
『ダブリナーズ』から『フィネガンズ・ウェイク』まで強靭な批評性が貫流しているこ
ともまた言うまでもない。本書は十代の作文から晩年のエッセイまで、プログラム解説、
書評、新聞記事などを含め、ジョイスの批評文の全貌が通覧できる初の全訳として意義
深い。