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『図書新聞』読書アンケート(2014年上半期)
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1、渡辺京二『幻影の明治ー名もなき人びとの肖像』(平凡社)
『逝きし世の面影』の著者が、山田風太郎にどのような関心を持っているのか、と
いう興味から本書を読んだ(「山田風太郎の明治」)。奇想と伝奇性に満ちたこの作
家が、いかに深い歴史的リアリティを獲得しているか、作品に沿って丁寧な読解を進
め、その充実した論述に引き込まれた。司馬遼太郎批判(「旅順の城は落ちずとも」)
からも重要な論点を教えられる。
2、ガルシア・マルケス+バルガス・ジョサ『疎外と叛逆』寺尾隆吉訳(水声社)
『百年の孤独』と『緑の家』をそれぞれ発表して間もないマルケスとジョサ(リョ
サ)の対話(1967)、ジョサのマルケス論、ジョサへのインタビュー(1969)が収録
され、貴重な資料を提供している。対話は、たとえばボルヘスへの評価のように、こ
の両作家の生真面目(ジョサ)とはぐらかし(マルケス)の資質の違いを浮き彫りに
して面白い。カストロ政権をめぐり、ジョサのマルケスへの殴打事件にいたる確執は
後年のことだ。
3、バルバラ『赤い橋の殺人』亀谷乃里訳(光文社古典新訳文庫)
シャルル・バルバラという、十九世紀フランスの知られざる奇才の初の邦訳小説。
日本はもちろん、フランスでも百五十年もの間、忘れ去られていた作家だった。発見
したのは訳者で、その博士論文が端緒になったという。本作は、ある殺害事件をめぐ
る恐怖小説の大枠を持つが、幻覚的な心象風景が、バルバラの傾倒したポーをも想起
させる。なお、ドーデの「黄金の脳みそを持った男の話」(『風車小屋だより』)は、
バルバラのことだったかと改めて気づいた。